30 August 2006

30AUG : 笑うエディンバラ2006その4

◆炎の七三二十一日間のフリンジがおととい閉幕しました。わたしはうまく日常社会に復帰できずに困っています。あの怒涛のコメディ漬け快楽の後になにごともなかったかのように日常に戻れ忘れろとかは非コメディヲタに言う言葉、今のわたしはいっそ死ねと言われたい。だからと言ってあっさり死んだらそれもまた困りもんですが。

◆しかし、このエディンバラを2年間ずーっと楽しみにしていて(去年は「正伝」をやってて行けなかったのです)、とにかくあまりにも楽しみだってんで、こないだ7月ごろには「もういくつ寝るとエディンバラ、あとひと月でエディンバラ、ひと月たったらエディンバラに行ける、ひと月たったらエディンバラに行けて、そしてその後は… エディンバラから帰ってこなければなんない… うううひと月後にエディンバラから帰ってこなきゃならないなんて嫌だ悲しいうわああん」とかわけのわからない動揺をしていました。こうなるとビョウキ、というよりフリンジ中毒。フリンジで笑っていないと幻覚に襲われるとか。その場合カラダに這い登ってきたりする幻覚はぜひ小さなパイソンズかなんかであってほしいものですが、そうなると患者はけっこう楽しくて治療する気なんかおきないのが難です。

◆3週間にわたる過酷なフリンジマラソンの勝者には、今年からスポンサーが変わり「イフコメディ」と呼ばれるようになったフリンジ大賞が授けられます。もっともこの賞の新しい名称は、圧倒的に定着している去年までの「ペリエ・アウォーズ」にかわってどれほど認識されているのでしょう。
とりあえず大賞はフィル・ニコール。実はこの人は見ていないのですが、しかし特筆すべきはパネル・プライズのマーク・ワトソンです。フットライツ出身のスタンダップの人で、4年くらい前にピーター・クック追悼チャリティライブで見かけたのが最初でした。以来めきめきメジャーになっています。おととしには、アダム・ヒルズが「あいつのスタンダップは見に行ったほうがいいよー!」と強力に推していました。すでにロンドンでソロ公演を成功させているし、フリンジではもう説明抜きで名前が通用している感じになっていたし、今後どうなるか。楽しみです。

◆コメディのかたわら、街の中心のショッピングセンター「プリンシズ・モール」で、改装中の壁を利用し展示されていた、The Fringe: 60 Years, 60 Photosを見に行きました。ザ・スコッツマン紙協賛です。
誰かのはあるだろな、と下心抱いて行ったら案の定、若テリJ写真を発見。展示写真群のこの頁一番下右から2番目です。→

展示内のパイソン関係はそれだけだったので、スコッツマンさん他の写真はないのかいとつぶやきながらさっき改めて探してみたところ、マイケル写真のみを発見したんですが、ちょっと遠くて言われなければマイケルだとわからないですねこれは。撮影日がないということは、テリJ写真とは別の年に撮られたのでしょうか。


さてフリンジで見たものでよかったものメモ続きそして最後。

Synphonia
よく晴れてはいたもののすでに肌寒いくらいのエディンバラ、そのロイヤル・マイルの路上仮設舞台で、海パンいっちょでウォーターボーイズのような客引きミニ公演をやっていたイタリア人4人組です。足を止めた通行人に「この中にイタリア人はいる?イタリア人は?いない?よし、これでマンマにちくられずに好きなようにバカができる!」と言い、「みなさんわれわれはイタリアから来ましたあ!どうぞ見に来てくださあい、見に来るときはトマトを持ってきて、忘れずにわたしたちにぶつけて下さあい!」とさかんに叫んでいたのが上記リンク写真で一番奥にいる人でした。で、わたしが見に行ったのは、海パンに水泳帽姿のこの人がジョンに激似だったからです。人生の行動を決定するのにそういう動機でいいのかと問い詰められれば、そういう動機でいいのですとしか答えられませんわわたくし。

もっとも実際に行ってびっくり。30人くらいの小さな空間での昼間の公演で、新聞にもレビューはありませんでしたが、それにしては客はよく入っていました。たぶんこの路上客引きが大きかったからだと思います。しかし、路上ではウォーターボーイズだし、配られたフライヤーに印刷されていたのもこの写真だしで、だからてっきり肉体使用フィジカル系笑いだとばかり思っていたのですが、実はこの4人組はクラシック音楽のパロディの人たちでした。最初4人がびしっと燕尾服で決めて出てきて、なんだ様子が違うぞと思っていたら、いきなりたいへん美しいアカペラでコーラスが始まりました。びっくりしてひっくり返りました。
このへんにびしっとした写真があります。→
そこからいろいろ台詞抜きで視覚系のクラシックねたを連発、立ってストラップなしで演奏しているクラシックギターでZZトップのギター回しのあれをやったりとか(何度見てもどうやっているのかわからなかった)、いけてないロックスターに客席も含めて皆でトマトや芋やネギをぶつけたりとか客はきゃっきゃ言って大喜び、しかしそのベースにある歌や楽器はたいへんクラシック的に見事に決まっている。レイナー・ハーシュもそうなんですが、「クラシックができる人」が「コメディをやる」という、そのインパクトだけですでに他を一歩リードできるような気がします。思いがけずたいへん愉快な1時間でした。こういうことがあるからフリンジは楽しいのです。それと、長身燕尾服のジョン似の彼がウッドベースをバリバリガリゴレと弾く姿はそれはそれはカッコようございました。ってまたそういう動機か。そうなんですけど。


がーまるちょば
会場になっていたのはエディンバラ大学の学生ユニオンビルの一室の「ディベート・ルーム」という部屋で、暗幕の向こうにステンドグラスが見えたりして高級感が漂っていました。フリンジの中では大きめのスペースであり、そこがほぼ満席で、しかもほぼ非日本人で埋まっていました。開始直後から快調で、特に前半のいちびったパントマイムが非常に受けていました。こっちのダブル・アクトがマイムなんかをする場合、片方が行動して片方は受身とか役割分担されている場合が多いようなんですが、がーまるちょばの場合は両方ともどんどん素早く動き回るのが新鮮でした。後半の無言劇「街の灯」も、最初客席は「ん?」という反応でしたが、ああこういうことをやっているのかと客が理解してから非常にいい感じでした。日本だと台詞はついているんでしょうか。いやそれにしても、わたしはスポーツにはあまり興味はないのでオリンピックやワールドカップも適当に流す非国民な人生を送ってきたんですが、最後大拍手でひゅーひゅー言われている舞台の上の同胞を見て、ここに来てようやく国民復帰、はげしく「うぉーいいぞニッポンちゃちゃちゃ」な気分になりました。


あといろいろ見たんですが、面白かったものとなるとこのくらいでしょうか。
で、
ここでひとことだけ。
がんばれフットライツ。ぜひともフットライツ。ここ3年ほど「面白くなくはないけど」という調子だったんですが、今年のスケッチ仕立て芝居は見ているのがかなりしんどかったです。いやそれでもフットライツだから、小さめながらもわりとちゃんとした会場でレビューもされてそして客もわりと入っているのです。それはフリンジの中ではとっても恵まれている立場だと思うのです。だからがんばってほしいのです。2001年にはペリエ・アウォーズにノミネートだってされたんだし、それにあのフットライツの中の人たちなんだぜひ。

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26 August 2006

26AUG : 笑うエディンバラ2006その3

ちょっと余談です。
昨夜アッセンブリーのミュージック・ホールわきのバーで、わたしはアダム・ヒルズの開演を待っていました。
するとそのふたつ前のスロットでやはりミュージック・ホールの舞台に立っていたはずの、ティム・ブルック=テイラーとグレアム・ガーデンが連れ立って現れました。ふたりとも帰り支度で肩にカバンがかかっていました。
そこにアッセンブリーのスタッフシャツの女の子が走ってやってきて、奥のプレスルームの方を指さし、早口で何か用ありげにしゃべりました。そして「ちょっと待っててください」という仕草を両手で示し、また小走りで去っていきました。
ふたりは女の子の後ろ姿を見送って、「じゃ」という感じでバーのカウンターに寄りかかり、待ち体勢になったのですが、
そのときかれらふたりの距離がとても近かったんです。
いや、人と人との距離ってありますよね。知り合い度とか親しさによって左右される、人間が話をするときに無意識に置く間隔。
ミドルクラスの英人男性同士の場合、たとえ親しくても、「ミドルクラスの英人男性同士」であるべき一定の空間が常にあるような気がするんですが、
そのときティムさんとグレアムさんの立ち位置はものすごく近かった。それは不意をつかれるほど、見ていて思わず「近い」と感じてしまうくらいの。
初老で白髪になったグディーズふたりはそういう距離で当たり前のように立っていて、そして互いにささやくように話をしてはときどき笑顔が見えました。わたしは反対側の壁際で、この光景を覚えておこうと、かれらがプレスルームに呼ばれて去るまでテーブルに頬杖ついてじーと眺めていました。

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25 August 2006

25AUG : 笑うエディンバラ2006その2

フリンジの会場は、大はちゃんとした劇場から小はパブの2階を片付けて暗幕張って椅子を並べただけのものまでさまざまで、エディンバラの街中にはそういう空間が約300箇所つくられています。それぞれの場所で昼過ぎから深夜まで芝居・スケッチ・スタンダップなどが平均1時間のスロットで回転しており、総公演数は確か1800本くらいになるはずです。しかもこれはコメディ部門のフリンジだけの数字です。さらにこの他に演劇や音楽や映画や文芸部門があるわけで、これはちょっとただごとではありません。こういうただごとではないことを毎年ちゃんと実現させているエディンバラの中の人たちをわたしは尊敬しています。

1800公演の中から何をどう見るか。
その選択には慎重な判断と大いなる決断力とが要求されます。
とはいえ知っているもの以外は結局、「ザ・スコッツマン」や「ザ・ガーディアン」などの新聞、「ザ・メトロ」などのフリーペーパー(いずれもフェスティバル期間中は毎日数ページの特集を組んでいる)、「スリー・ウィークス」等フェス専門フリーペーパー、フリンジサイトなど、メディアにあがっているレビューに丹念に目を通し『これは自分に面白そうだ』と思うものを探すという地味な、しかし楽しい作業に頼ることになります。

レビューの印象と自分の直感とを頼りにチケットを買ってとことこ見に行き、そしてそれが本当にびしっと面白かったときには、なんというか賭けに勝ちをおさめたようでたいへん気分がよいものです。あいにく面白くなかったときには、ちくそう時間と金返せ!などと大人気ないことを叫んだりはせず、まあおまつりで縁起もんだし。とつぶやいてどんどん次に行くのです。

で、見たものでよかったものメモ続き。

Adam Hills: Characterful
その1800本の中で、フリンジに来たならとにかく何をさしおいてもこの人は見るべしと断言できるのがオーストラリア人のスタンダップ、アダム・ヒルズです。年々会場がどんどん大きくなっていて、今年はキャパ600のアッセンブリーのミュージック・ホール、そこを毎晩ほぼ満席にし続けています。

この人の何がいいかって、とにかく話がうまいのがいい。いやスタンダップの人なので話がうまいのは当然なんですが、なんというか、言おうとしていることがものすごくよく伝わってくる。役者やコメディアンに必須のこの人に伝える技術を『デリバリー』と呼びますが、そのデリバリー能力が明らかに段違いに優れています。そして話題が明るいのがまたいい。誰かをおとしめて笑うとかそういうことをほとんどしない(もっとも、ブッシュやブレアに対する皮肉はぴしぴし言いますが)。

今回は、「おととしフリンジに来たとき、アッセンブリーの向かいのパブで『カッコーの巣の上で』の舞台に出演していたクリスチャン・スレーターとマッケンジー・クルークと飲んでいたら、ある客が突然倒れ、そこに医者とスコットランド人セキュリティとバート・シンプソンの声優のナンシー・カートライトが出現してえらい騒ぎになった」という話が爆発的に面白くて酸欠になるまで笑いました。でも内容を詳しく書いたところでそのデリバリーのすごさは伝わらないと思われるので割愛します。おととしのねた Go You Big Red Fire Engine! がCD になっているのでぜひ実際におたしかめください。 →

アダムで長くなってしまったのでまだ続く。

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24 August 2006

24AUG : 笑うエディンバラ2006

地元の人は『エンブラ』と発音するエディンバラに来ています。おととい朝5時半に起きだしそのまま車に転げこみ、A1を半目のまま平均時速 85 マイルでひたすら北上、午後に到着、返す刀でよれながらその足で街に出てきました。するとエンブラ中フリンジとフェスティバルの熱気と喧騒とがびしびしで、ヨレ頭もその空気で電子レンジタマゴのごとくいきなり沸騰、というかぼんと爆発、正気などとうに飛び散り、何もかも忘れて面白がっています。

見たものでよかったものメモ。


Spymonkey - Cooped
一見堅そうな4人組による、一見古城の貴族や執事なんかが出てくる純ゴシックスリラー芝居なのですが、特に上記リンク写真中央の男性はかなり男前の人なんですが、全員その壊れ方が半端ではないです。このリンク先に『男女の全裸シーンがあるんで注意して下さいね』と書かれていますが、それは本当です。本当に全裸が出ました。文字どおり身体張ってます。素晴らしい。


Brendon Burns : Sober Not Clean
いかに自分はアル中になって病院送りになったかということを語る、マッチョなオーストラリア人のスタンダップ。1分に5回くらい FとかCとかの単語が入り、露骨な下ねた満載でむちゃくちゃやばい(よって途中退席者数名)。でも、いいのかこの目の前の人のこんなに悲惨で乱暴な話を笑っても、とためらう間もなくねじふせられるようにして笑わせられました。乱暴なんだがぎりぎりのとこで踏み留まり自虐笑いにすり替えている感じに圧倒されました。余談ですが、遅れて入場したら『うわー中国女が来たぞ!』とかなりいじくられました。


Mozart's Back!
04年のボーガ・アゲイン!で大ブレイクした笑うクラシックピアニスト、ライナー・ハーシュがモーツァルトの一人語り芝居で帰ってきました。わたしはおととし見て『素顔はそうでもないのにベートーベンの真似をするとジョンに似ている』という変なホメ言葉を書いた記憶がありますが、今回モーツァルトのかっこでもやはりジョンに似ていました。前回あった自己紹介がわりの『いかに自分は笑いピアニストになったか』みたいな語りは、今回は双方了承済みとして省略、完全に一本の芝居になっていて、それがたいへん面白い。『わたしは幼いころに父親に才能を発見されて演奏旅行に連れ回されたわけで、要するに元祖マイケル・ジャクソンみたいなもんです』とか、モーツァルトの携帯の着メロがベートーベンだったあたりがかなりツボでした。


The Goodies Still Rule OK! Tim Brooke-Taylor & Graeme Garden Live On Stage
ティム・ブルック=テイラーとグレアム・ガーデンのトークとグディーズのハイライトシーン上映の1時間半。この人たちの場合、ビル・オディがいないじゃんとか、内容が面白いとか面白くないとかそういうレベルの話ではもうないです。わたしは2人版ISIRTA生再現、および生レディ・コンスタンス(じじいバージョン)を聞けただけで幸せです。生きててよかったです。泣きそうです。それにしても、若いころのティムさんの女装は本当に美しい。『英国首相に立候補するエビータ(音楽:アンドリュー・ロイド・ウェーバー)』をなんか後光がさしてます。また、それを見ながら照れている初老のティムさんが妙にかわいくてぐっと来てしまいました。好き好き好きグディーズ。

この稿もうちょっと続く。

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