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01 October 2006

01OCT : アーサー王の帰還

9月30日でした。
ロンドンウェストエンドのスパマロットのプレビュー初日でした。
まだスパマロットという文字もぜんぜん存在しなかったころから「なんかこういうミュージカル話があるらしいぞ」とああだこうださわいできたので、その後その芝居がちゃんとできてきて、その上ブロードウェイで大ヒット、さらに全米拡大ツアー、来年からはラスベガスにも定着、そして今回ロンドンに逆輸入されることになりついにその初日、というこの事態がにわかには信じがたいです。

でも信じられなくてもいい、信じられなくても嘘でも幻覚でもお花畑でもとにかくキリギリスはそこに行かなければ、とチケットを買って見に行きました。

まず、残念ながらこの初日にはニューヨークで起こったような生き残りパ組全員集合はありませんでした。オフィシャルの一般開演日である10月16日にひょっとしたらあるのかもしれませんが、どこにどう問い合わせても今のところはっきりわかりません。それに16日、あるいはほかの日に仮にナニカがあったところで、おそらくわたしはそれを見ることができないでしょう。いや自分が見られないからといって別にどうでもいいというわけでは決してなく、そういうことになったらそれはご縁がなかったということでいいのですが、しかしもしそれが本当に起こりしかも目撃できなかったら、いまだにはげしく残っている「ジョージ・ハリソン追悼ライブパイソンズ尻見逃しの件の傷」に塩をざりざり塗りこまれ熱湯注がれることは間違いありません。ううう。とまだぜんぜん起こっていない、というか起こるかどうかすらわからないことですでにダメージを受けています。


とりあえず初日にはそこにいようとキリギリス的に気を取り直し、一路ロンドンをめざして南下しました。
★の画像はクリックで拡大します。


午後5時ごろ、夕暮れのパレス・シアターはこんなふうでした。

ああなんてステキなながめであることか。小道の奥にあるブロードウェイのシューバート・シアターとは異なり、この劇場はこんなふうにシャフツベリー・アベニューとチャリング・クロスとの広い交差点の角に建っているので、ステキなスパマロット空間が外に向かって優雅にひらかれているかのようです。それからこの交差点が、「ケンブリッジ・サーカス」であることに今さら気がつきました。(画像右上に表示が見えるでしょうか。ちなみに例の1963年フットライツレビューの「ケンブリッジ・サーカス」の劇場は、ここではなく、この角からシャフツベリー・アベニューをもう少し奥に入ったリリック・シアターです。まぎらわしいので若干の混乱を招いたそうです。)


周囲はすごいことだかなんだかよくわからないあおりポスターだらけです。


そりゃそうだろう



それはじまんできることなのか



「ふうん女の子かあ」「よしてくださいよあなた」
ちとわかりにくいですが、一番下のWitch Burnings が赤線で消されています。実はスパマロットからは魔女裁判のシーンがまるごと落ちており、よってかわいそうなことにサー・ベデヴィアの出番がほとんどありません。なんでも初期の脚本にはあったものの、予算の都合で削られたという記事をどこかで読みました。



ボックスオフィスのとこ。


本日のチケットはオフィシャルには完売ですが、「リターン券待ちはここんとこに並べ」と言っている看板もパイソンです。これを撮ってからまもなく、看板の後ろにはずらりと列がつらなり始めました。開演ぎりぎりになってもまだ人はたくさん並んでいました。


ところで、開演は8時なのになぜこんな時間から自分はここにいるのかなあ、おかしいなあどうしてかなあと素知らぬ顔しつつわたしは裏にまわりました。

すると、ステージドア近辺にどうも同類くさい人々が人待ち顔でたむろしているのを発見。

(同類の見分け方: 片手にカメラもう片手に油性ペンを握りしめ、肩からはいろいろなブツが入っているので観劇客にしては妙に大きなカバンが下がっている)

おお同類だ、やはり来てしまうのだね同類たちよ。実は自分もしっかりそのタグイの人間であるわけです。そのうちのひとりとすばやく「誰か見た?」「いや、まだ誰も」と短い会話を交わしました。

でももうすぐなにかあるよ、とキリギリス触覚にデンパを感じ、日が落ちて次第に冷えこんでくるロンドンの空気のなか待つことしばし。



やがて不意に「お」と空気が動いたと思ったら、





あっエリックだっ。




「やあ君たち、いつから待ってた?開演まであと2時間もあるよ?」とか言いつつ、同類がさしだすヲタ物件にさらさらサインをしたり写真を撮られたりしています。

で、

すみませんごめんなさい。

はずかしい告白をします。

わたしはそこで、

「正伝」を出したのです。


(すみませんもうしわけありませんわたくしはこういう展開を若干期待して1キロ本を妙に大きなカバンに詰めて持っていってたのです。)


「えええエリックさん、実はこういう本がじゃぱんにありまして、でこの本はこれこれシカジカでして」
「えー?これが?これどの本?え、オートバイオグラフィって、あの厚いやつ?あれを日本語の本に?うひゃー信じられん、よくやったもんだ」


そこでさらにはずかしげもなく「すいませんここにサインをください」とお願いしてしまい、すると「もちろん」とさらさらさら。








家 宝 決 定 。



「きみ、今夜の見るんだよね?楽しんでいくといいよ」
「そうです、けど楽しいのはもう知ってます」
「え?」
「いや実はニューヨークですでに3回見てるんです。でもロンドン版はどうなってるか知りたくて」
「…えー、それはなんというか、どうもありがとう。びっくりした。じゃ、ロンドンでもよい時間をすごしてほしい」

その後しばらくその他の同類たちを交えて立ち話をした後、エリックはグリーク・ストリートをソーホーに向かって歩いて去っていきました。



ちなみにこちらはその後、大人気のティム・カリーさんです。






さて、開演時間も近づいてきたので、スパマロット土産物物件をあれこれ物色した後劇場内に入りました。そしてえーとわたしの席はどこかしらと券を片手にうろうろしていたときふと、客に同化した変哲もないセーター姿のエリックが、客席後方の通路に立ち、まだ幕が下りている舞台をじっと眺めているのに気がつきました。まわりのロンドンびとはときどきふりかえり、「あ、あれはあいつじゃん」というささやきが聞こえたりもしましたが、みな礼儀正しくさりげなく距離を置いていました。

そして芝居。アーサー王のティム・カリーがココナツの蹄音高らかに現れると観客から大歓声が起こりました。どうもロンドンの観客はすごくリラックスしていて最初からよくあったまっているようです。

スパマロットはホリグレをベースにしているとはいえ、ブロードウェイ仕様ゆえアメリカナイズされているネタも多くなっています。そのへんはロンドンの舞台ではどうするんだろうと思っていたら、アメリカ的ネタもほぼそのままやっちゃっていました。そしてロンドンの人々は平気で笑っていました。なかなか強靭な消化能力を持つ人々だと思いました。ただ、さすがにサー・ロビンの持ち歌 You Won’t Succeed on Broadway は You Won’t Succeed on Shaftesbury になっていて、その他の歌やセリフも「ブロードウェイ」の部分が適宜「ロンドン」や「ウェストエンド」に置き換えられていました。しかしいずれにせよ、ロビンのかの「芝居を成功させるにはユダヤ人を味方に取り込め」という大胆な主張は変わっておらず、そしてロビンがこう口にした瞬間、客席は「うわーう!」とかなりざわめきました。

しかし英人のみなさんにとり、自分とこの文化(と言ってしまおう)が、アメリカっぽく化粧をほどこされてアメリカで大いに受けて、そして受けたからってそのまま自分のとこに戻されてきて今それを見ている、ってのはどんな気分かなと少し考えもします。「エビータ」を見ているアルゼンチンの人々のようなもんでしょうか。いやあまり役立つたとえではないですが。ちょっとその感覚は想像がつかないです。

でもそんなことはおかまいなしに、人々は新しいギャグによく反応しつつ、一方でなじみのキャラクターやセリフが出てくると「イエーイ!」と嬉しそうに拍手、知っているセリフは口々に同調(「(ちーん)ぶりんがーうちゃでーっど!」「ふぇっちらばーしゃ!」「ニッ!」「ニッ!」「しゅらべりー!」「ティム!」)、歌も一緒に歌っていて、「今われわれはとても面白い芝居を見ているんだよ楽しいなあ」と感じている観客が示す反応を全部示していました。これはかなりすてきな時間と空間でした。なんか泣けてきました。だってなにしろこの21世紀に、ロンドンのウェストエンドの劇場満杯の人々が、フィナーレで総立ちになり拍手に続いて「オールウェイズ」を楽しそうに身体動かしながら歌ってるんです、これに感動せずにいられようか。そしてフィナーレとアンコールが終了し出演者が去ると、舞台のスクリーンには例の「PISS OFF!」の文字が。でも人々はすっかりその失礼さも平気なあたまになっているらしく、かまわずげらげら笑っていました。

これはいいぞおー、これから面白いことになるぞー、と考えつつ人波にまざって劇場出口に向かっているとき、うしろからちょんちょんとつつく人がいます。ふり返るとそれはエリックでした。どうやら客席でふつうに通して見ていたようです。そして、「どうだった?面白かった?」とたずねてきました。わあエリック・アイドルにちょんちょんされてしまった、もうこれ超ウルトラロイヤル家宝経験決定だあ、と思いつつ、「いやロンドンのほうが面白かったです観客の感じがよくて最高でした」と答えると、エリックはひとつウィンクをして、楽屋方面に去っていきました。

春はあけぼの、夏はよる、パイソンはロンドン、やはり野に置けパイソン草。アメリカのスパマロットは時とともに次第に深く静かに浸透していきましたが、故郷ロンドンに帰ってきてそこにまかれた21世紀のパイソ種はどうはびこって、もとい、育っていくのか。仮にこの土壌では育たずいきなり終わってしまったとしてもそれはそれでまたパイソンらしくていいと思うんですが、とりあえずしばらく定点観測です。

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Comments

うわあああ。akkoさま、すごい、すごい、すごいことに! エリックのほうからちょんちょんされて、感想を聞かれたということは、そう!ある種、仲間内とみなされたのですよね。きっと、ジョンにも、ほかのパイソンズにも、あの重厚長大本を訳し、かつ、Spamalotを見倒す勢いの人がいるという話は伝わるはず! わたし、今でもパイソン・ファンも継続中なので、ぞくぞくきました。

それで、エリックのファンサイトに何かでてるかなと、久しぶりに見てみたら、ご存知でしょうが、South Bank Show に5人がでるよというニュースが。で、当番組のサイトを見ると、10月15日の夜にSpamalot特集だよと。
http://www.itv.com/page.asp?partid=2701
英国に住んだことはないので、どんな番組かわかりませんし、この書き方だと、全員が一同に会するわけじゃないのかな、とも思いますが。前夜祭?

Posted by: エフェソスの半分蜂 | 02 October 2006 at 16:01

サウスバンクショウは、ある現代芸術をとりあげてシャープな批評・評価を加える渋い番組です。シルバラード直後ワンダ前のころのジョンが題材にとりあげられ、かれのコメディとは何かこれからどこに行くのか、と議論されたことがあります。これ控えめに言ってすんごく面白いです。

で、くだんのサウスバンクショウ@スパマロットは、パレスシアター裏につどったヲタたちの間でも「どうなるのかなあ」と話題になっていました。だからわたくし、実は帰ってから速攻で電話しちゃいました。

「もしもしITVさんコニチワです。ところで御社のシカジカのサウスバンクショウ、パイソンズのインタビューとなってますが、これって一箇所に全員集合なんですか」
「えーと、確認するんでちょっと待っててください。…あわかりました。もしもし。あのですね、最初はそうしたかったらしいんですが、どうしてもかれらのスケジュールが合わないので、個別のインタビューになったようです。ご参考までに、全員のぶんもう撮りおえてるそうですよ」
「わかりました。じゃついでに教えてください、その翌日のスパマロットオフィシャル一般開演の夜には、ニューヨークでかれらがやったみたいな全員集合はあるんでしょうか」
「えーと、確認するんでちょっと待ってくださいね……… あ、わかりましたわかりました」
「えっどうなんですかどどどどうなんですかっ」
「えーとですね、うちではどうしてもわからないということがわかりました。だからどこかほかにあたってみてください。そこんとこよろしく。ではお問い合わせどーもさようなら」

上記本文で「それならそれでご縁がないということで」とか言いながら、なんとなく未練がましい行動をとっています。うう。

Posted by: akko | 04 October 2006 at 13:28

akko嬢

おお、すごい。もちろん、エリックにちょんちょんされたところは、一生洗わないことでしょう。うーん、すごい。

最初に私が見た有名人は、神戸の山奥で選挙カーに乗って愛想をふっていた横山○ック氏でした。うーん、遠い過去。
また、デンハーグ郊外でのフリーファイトの試合会場楽屋で、額を割って顔面血がダラダラという控えめな怪我をした若手日本人選手に付き添って病院まで行きましょうか?と申し出た際、格闘家の前田○明氏に「お世話かけます」と言われたとか、ペーター○ーツの腰をマッサージしたら、筋肉がほぐれたために立てなくなったとかという経験はありますが、エリックにちょんちょんされてみたいなー。

うーん、うらやまPです。

P.S.まだケーブルテレビが接続されてないので、TV見られません。うーん、取り残されてる。。。

Posted by: オランダ人間山脈 | 04 October 2006 at 18:27

わおぉ~、(私の記憶する限りでは、)これで生きてる英人組との接近遭遇、全制覇ですね!
あと残るは巨匠ギリアム。すごいっ!

Posted by: まいまい | 06 October 2006 at 08:26

★ 和蘭山脈さん
そのとき革ジャンを着ていてその肩をつつかれたので、本当に一生洗わずにすみそうです。わい。と、わたし的にはその価値ははかりしれないのですが、なんかこう、「千両ミカン」という文字もよぎらなくはなく。それからわたしの究極の夢はジョンに魚またはよくしなる枝で殴られることなのですが、これはやや難易度が高そうです。

★ まいまいさん
パレスシアター裏でひそかにコトホイでいたら、見知らぬヲタクA君が、「あ、そうなの?全員?あ、ギリアムはまだなんだ?ふうん、あっそう、ところでぼくはギリアムのサイン持ってるよ。ほら」と言って、テリGサインつきのホリグレDVDジャケットを見せてくれました。ヲタ道とはどうも長く曲がりくねっているもののようです。

Posted by: akko | 07 October 2006 at 05:23

★akkoさん
 ちょんちょん、おめでとうございます。
 これ以上のできごと、なかなかないんじゃないでしょうか。
 極東の西の方で興奮してしまいました。
 次は、よくしなる棒(もしくは、グレーリング?)ですね。まずは、面白い棒を探す目を鍛えてください。
 オールウェイズ……をakkoさんも一緒に歌ったんでしょうか。僕も一万人とある歌を、放射冷却の北海道で唄ったことがありますが、とても気持ちよかったことを覚えています。
 ココナッツの音色、日本には来てくれないのかなあ……そんなことを考えてます。

Posted by: キイ | 07 October 2006 at 15:52

キイさん
キャッツやライオンキングやシカゴはもちろん、スウィーニー・トッドなんてもんまで持ってくるすごい日本の演劇界なので(あのブロードウェイのハイプな演出どおりでやるのでしょうかスウィーニートッド)、スパマロットもどうにかならないかと思います。その反面、英米のショウビズ界の裏事情をびしびしネタにしてしまっているあのストーリーがどのくらい日本語になるのか、細かなパイソンねたにどのくらい反応が起きるのだろうか、また「オールウェイズ」が合唱になるかなど、いろいろ課題は多そうでもあります。現地はいいですよー、なにしろまわりが(たぶん)全員ホリグレやパイソンを知っている人々です。わたしはスパマロットの芝居を見るのも好きですが、スパマロットを見ている人々を見るのもまたたいへん好きです。

Posted by: akko | 15 November 2006 at 00:02

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