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02 August 2005

02AUG : この国の湯水

ご警告:今日は長文です。いや普段に輪をかけて。

こないだとある英人が「あんたなんかいい音楽持ってないか」と訊ねてきたので、「勝手に選びたまえ」とわたくしのCD棚を案内しました。しばらくすると「ぶわはははははは」と笑い声が。ふり返ると、「わはははははあんたなんでこんなもんを」と指さす先にあったのは、ザ・グディーズのベスト盤でした。そして頼みもしないのに、「♪グディ〜ズ、ぐでぃぐでぃやむやむ♪」といきなりテーマを歌いだし、その歌はしばらく続きました。

「ちょっと待て英人。あんたはいつ一度も再放送されていないグディーズを見ているのだ」
と問うと、
「え?だって子供の頃は毎週やってて大好きだったよこれ。みんな見てたよ」
「ああそうか80年代まで続いていたんだあれは。パイソンよりよほど長かったのだ」
「あの子猫がBTタワーによじ登るやつ面白いよねえ」
「その『猫がBTタワーに登るやつ』は1972年のものだから、あんたの年だとそれはビデオで見たんだね」
「そうだよ。親が買ってくれた。何度も見た」
「そのエピソードはKitten Kong というタイトルなんだが、わたし的にはそれは『金髪にピンストライプスーツ姿のティム・ブルック=テイラーが、白猫に引きずられて緑の公園をすごい速さで走っていくやつ』だ。あれは実に絵的に成立した美しい光景であった」
「あああったねえそういうとこ。とにかくあの人たちはいつも走りまわっててどたばたしていて面白かった。♪グディ〜ズ、ぐでぃぐでぃやむやむ♪そいえばファンキーな手長ザルの歌とかあった。ドゥ!ドゥ!ドゥ!ザファンキーギボン!っとか」

わたしは歌を歌う英人を思わずじろじろ見てしまいました。ごく普通の人で、今までこういう話をしたことはほとんどありません。だから「そういうものを知らない」あるいは「興味がない」人だ、という理解でいたのですが、ちゃんと子供のころから知っていて、しかも歌まで歌えるのです。

その英国の人をながめるうち、異邦人の心には少し波風が立ちました。どうにも理屈にあわないことだとは承知しつつ、わたしは口に出さずにはおれませんでした。

「あのさ言っていいか」
「なんだ」
「何の因果かあたしあんたの国のコメディがすごい好きなんだよね」
「知ってるよ」
「でも例えばグディーズなんて、再放送もなくてビデオも廃盤になってるもんに興味を持って、でそれ見ようとしたときにはえらい苦労したんだよね。今は何でもDVD出てるけどその前の話よ。いろいろインターネットで探せばわりと出てくるけれど、でもやっぱりレアなもんは足で歩いて掘り起こしに行くしかないし、しかも高いし。あとわたしの性格上、そういうふうにはまってしまうと『これは当時の英社会ではどういう感じで受け入れられていたのだろう』とか知りたくなっちゃうんだよね。そうすると2時間電車乗ってロンドンまで出てって大英図書館で20年前とか30年前の本や雑誌や新聞や音源や映像をあさるとか、1日で終わらなくて往復4時間の道を何度も通っちゃうとか、まあそれは好きでやってることだからしょーがないんだけど、でも、なんというかさあ」
「なんだ」
「あんたそういうもんをやすやすと子供のころ見て子供心に刷りこまれてるなんて、うらやましい。と言うよりずるい」
「ずるいと言われても」
「ちくそう、わたしも子供のときに本能で見ていたかったぞ。日本人がいくら後づけで見ても読んで理屈を知って、本能で見るってどんな感じだっただろうと想像したところで、その感覚は絶対に永久に完全にわからないのだ。こんなに好いているのに、どんなに知りたいと願ってもだめなのだ。それをそんなにやすやすと。子供の頃に何も考えず。仕事もせず毎日ダラダラしながら。ちくそううらやましいぞ、ずるいぞそれは英人うをー!」
「で、一体どうしろと言うのだ君は」
「ちっ、せいぜいポンニチにうらやましがられていやがれ。ちくそう覚えてろよ礼は必ず」
「そんなことで礼をされてはかなわん。うーん、よくわからんが、たぶんあんたの国にもあるだろうそういうもの。ほかの国にはないけれど、あんたのとこでは空気のように満ちてる文化。そういうもんはどこにでもあるのだ、あんたは日本人としてその事実を認めて生きていけ」
「イランでは石油が安いようなもんですか」
「それとは違うかもしれないが」
「ポリタンク一杯で20ペンスくらいだそうです。水がわり。飲んでるんじゃないかと」
「コメディは石油とは違う、あれは人間の仕事の結果だし、火をつけても燃えないし、イランではグディーズは出ないだろうし」

今こう書きながら、この国にコメディが浴びるようにある感じは、日本ではマンガとかアニメーションが異様に発達している状態に似ている、かもしれない、という気が少ししています。

でも、まあ、本能で見ている人々がうらやましいのは事実ですが、後づけでしかも異邦人である人間にしかわからない面白いことってのも確かにある。

たとえばこの国の人間で、パイソンが何かも知らずジョン・クリーズという名前を知らず、つまり予備知識がまったくない白紙の頭で「フォルティ・タワーズ」をいきなり見る、という経験ができる人はほとんどいないでしょう。つまり、そういう体験が、どれだけモノスゴイ衝撃と麻薬的なまでの快感とを人に与え得るか、ということもみなさんご存知ないわけです。そうかあれを知らないのかみなさん。ふっふ、あれはすごいのだよ。ほんと。人生変わるくらい。強制横スクロール移動されるくらい。

ところで本頁右側ハシラの「おすすめサイト」にあるDonald MacさんのLankin’ A Go! Go!ブログ。いつも勉強になって仕方がないのですが、7月31日の「ウディ・アレンの面白さがわかるのか?」がすばらしいです。こういうよいものを読むと、映画以外にアレンを知らないくせにこういうブログを書いたりしている管理人は、その素性を隠すべくユライア・ヒープのように卑屈にぐにゃぐにゃするばかりです。うう。でもアニー・ホールのアンハッピーエンドはかっこいいと思います。ジュリア・ロバーツとの恋愛はアレですが。

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Comments

やー、日本にもありますよ。
ご指摘のとおりアニメの、しかも聞いた話で恐縮ですが、
ドラゴンボール大好き米人に
「ドラゴンボール見てる?」とか聞かれて
「子供のころは見てたけど……」と答えると
「そりゃあ俺だって12の時に見たかったさ!!!!」と嘆かれた、というものです。

長文と書いてあったのでどんだけ長いかと思いましたが、
いつもとそんなに変わりませんですよと思いました。

Posted by: サイ | 02 August 2005 at 12:04

本日(2005/7/2JPT),、こちらのa Johnsen's Journalからのアクセス数がいやに多く、こちらのページを拝見しました。「博覧強記」は、ちと誉め過ぎです。改訂を希望いたします。
とまれすこぶるお誉めのご推薦文をいただき、ありがとうございます。

1点だけ、改訂補整をお願いしたく、コメントを寄せさせていただきます。
御案内の内容は、決して「サブカル」にはあらず、と私は思っています。
なにか別の表記への変更は可能でしょうか?

サブカル、というと「サブ(昔一時話題になったゲイ雑誌ではないほう)」であり、ほかにメイン・ストリームがあるような響きをともないます。弊サイトで御紹介している内容は、お笑いコンテンツ群としてどちらかといえば「メイン・ストリーム」の属するほうの内容を選んでご紹介しています。
さらに「サブ」となりますと、詰めにくいさんとのコメントやりとり
 http://blog.livedoor.jp/donald_mac/archives/28204140.html
などでその一端をご覧いただけますように、やたらめったらとコアでディープです。
一応万国の日本語閲覧可能なかたにおわかりいただけるような「比較的メジャーなネタ」をピックアップしご紹介しているつもりです。少なくとも運営者は、そのつもりで毎週駄文を垂れ流しています。だらだら〜。

なにより「ボンテージ」「ゲイ/レズ」「ドラッグ」「記号論」だの、「サブカル」という言葉にはすっかりお馴染みのキーワードはなにひとつ敢えて触れず、いやむしろ意図的に排斥し、更新をすすめています。
わたしにとって、これらの記事群は「コメディの王道であり、コメディ好きなら、これぐらいは最低予備知識を備えておいたほうがよい。それすらも知らないうちは、くだらんネタをまき散らすな!このめくらども!」というメッセージの積もりでしたためております。
「サブカル」のご表記については、ご一考いただければ幸甚です。

とり急ぎ御紹介いただきましたお礼をかねがね。 Donald Mac 謹拝

Posted by: Donald Mac | 02 August 2005 at 18:33

★サイさん
アニメはうらやましがられますね。知り合いの香港人は「海のトリトン」が大好きで、トリトン話をふると実にうれしそうに、漢字の筆談を交えながら語り続けます。そのうれしそうな語りぶりを見ながら、英人の目からはわたしはこんなふうに見えているんだろうかと考えたりします。


★どなさん
ご指摘に従い、「サブカル」と「博覧強記」の文字は削除させて頂きました。ご本人の意図と食い違うご紹介をしてしまい、誠に申し訳ございません。

どうやら、sub-cultureという単語と、日本語になっている「サブカル」との間に若干の意味のずれがあるようです。「サブカル」と書く日本語は、確かにおっしゃるように地下っぽくて、「メイン」または「マジョリティ」が別にあるような印象を受けます。そのサブカルという言葉が指すものは、御ブログの方向とは異なるものであることを理解しました。そして、どなさんを存じ上げない方に異なった印象を与えてしまったかもしれないことを、つつしんでお詫びする次第です。

で、以下はわたくしの考えです。どなさんにとっては「今さら」かもしれませんが、個人的に頭の整理がてら並べてみます。

ある文化がsub-culture(英語)であるかどうかは、特にこの国の場合、母体に占める割合よりも、母体における社会的な位置で決まってくるのではないかと思います。たとえば、サッカー好きが何十万人いようとも、それは労働者階級の文化である以上、sub-cultureです。その一方でポロなんてのはピラミッドのてっぺんの方にいるほんの一握りの人々のものですが、それは上の方の人たちのものなのでsub-cultureにはならないのです。

で、コメディ、というか、わたしは60年代以降の英国産TVまたは映画コメディのことしか知らないのでいきなり乱暴にそれに限定してしまいますが、それは最初からはっきりと「上」の方に対する悪意と敵意と、ひっくり返そうという意志を抱えて社会に切り込んできました。その流れでは、モンティ・パイソンなどはかなり後発の一群に属します。

その表現方法は様々で、ぱっと見には直接そういう敵意を説明してはいないかもしれません。けれども、もちろん例外はありますが、ここ40年ほどの英コメディを突き動かしているのは、抑圧に対する静かなるしかし激しい怒りです。コメディの形で怒りが表現・伝達できる、ということは、わたしには大変新鮮で面白くて仕方がありません。

21世紀にもなると、さすがに1960年代のある意味楽天的な「怒れば社会は耳を貸す」という希望は薄れています。それでも見渡すと、数年に一度定期的に怒りの固まりのような新しいコメディが現れては、その源泉を掘り返して更新しつづけています。

現代のBBCという媒体がすでにすごく「上」なんじゃないか、その上に乗っておきながら怒ることに矛盾はないのか、だいたいこの国のコメディなんて完全に産業ではないのかとか細かいこともありますが、とりあえずコメディの方から定期的に自分たちは「上」ではないという意思を表明しつづけている以上、ではsub-cultureにしておいた方がいいのか。と思うのですが。どうなのだろう。

とか考えたりしています。
とりあえずえーと、sub-cultureに対して日本語の「サブカル」という言葉の使い方が間違っている、と言いたいわけでは全くありません。それはひとつの日本語です。単に異なる意味になっているだけです。でもわたしはその違いに思いあたることなく何も考えずに「サブカル」と書いてしまいました。どなさんには大変失礼申し上げました。

ところで、博覧強記の方は残させて頂きたかったのですがだめでしょうか。というか、御ブログ以外にもそのご活躍ぶりをちょっとだけ存じ上げておりますが、ちょっとだけ存じ上げているだけですでに、その引き出しの多さには舌をお巻き申し上げるしかないのでありますが。
とりあえず、今後もなにとぞ、びしばしと勉強させて下さいませ。

それからツツイさんと米朝さんの「笑いの世界」、アマゾン市場ですぐ注文しました。どなさんと詰めさんがとことん語る対談集なんてのがあったら、ぜひとも読みたいものです。

Posted by: akko | 03 August 2005 at 01:56

「怒り」をキーワードに持ってくるあたりが、なんだかとてもまきさんらしいなあ、と思いがら拝読いたしました。
以前一度お会いしたときには「顔見せご挨拶」ということもあり、あまりまきさんの知識のストックぶりを拝受いただけなかったのですが、このblog「a Johnsen's Journal」は、私のグレブリお笑い情報ソースのひとつとして、かなり何度も読み返しています。どうか息長く更新し続けていただきたく思います。一愛読者として。

前にお話したかもしれませんが、私はどちらかというとガザツなUSAネタへのバイアスへ偏りがちです——以前ちょっと住んでいたので、笑いのニュアンスがわかりやすいから。
ここ数年でグレブリもんのネタで今何も調べずに思い出せるものといえば
・Absolutely Fabulous
・Black Books
・Bo Selecta
・One foot in the Grave
・Only Fools and Horses
・Happiness
・Little Britain
・Goodness Grecious Me
・2pints Lager & Packet of Chrisps
ぐらいでしょうか。その程度なんです(テレビばっかりやがな)。博覧強記など、とんでもない。

博覧強記という言葉にふさわしいのは、上掲の詰めにくいさんとその可愛らしい嫁さん、それにわが共同運営サイト「サンセット大通り」の相棒のひとり・玄界灘男さんのようなかたがたこそ、博覧強記と呼ぶにふさわしい。彼らは少なくともわたしの512倍ぐらいのお笑い元ネタストックを知っています。彼らに比べれば、私などはふりかざす蟷螂の斧に過ぎません。

詰めにくいさん&カバコフ(仲間内通称「梅ちゃん)夫妻とは、時折落語会などでお会いすることがあります。そのときの会話はまさに
 http://blog.livedoor.jp/donald_mac/archives/28204140.html
の内容そのまんまなんでありまして、詰めにくいさんなどは会話の合間にそれぞれの芸人の口真似なんかもします。これがまた、滅法うまい。

だれか上手なインタビューイと、編集上手なエディターが段取りすれば、詰めにくいさんへのインタビューだけで充分一冊作れると、私は思うんですがねえ。誰か作らないかなあ。
またはパネル・ディスカッション・イベントみたいなものを企画し、それを収録しておいてオンデマンド放送で流す、なんていうのもオンライン時代にふさわしく面白いコンテンツを作れそうですね。

別件「光デパートさん」&「やゆよさん」それに「インタビューイDonald Mac」でオンラインディスカッションのコンテンツを作る、っていうのは面白いかなあ、などと今、ぼんやりと思っています。果たして実現するのやら。

少々余談が過ぎました。
世界に13人の読者を想定されているジョン専サイトとして、これからもぜひ、バンバンおしたためくださいませ。

Posted by: Donald Mac | 03 August 2005 at 18:25

かのように真にお詳しい方々に本でもなんでも好きなようにひとつまかせてしまえば、文化のためにすごく役立つと思うのですが、どなたかひとつ本気でやっていただけないでしょうか>どなさんとか詰めさんとか梅さんとか光さんとかやゆよさんとかのディスカッション企画。ものすごく読みたいのですが。日本にはこのように知識のストックがあるというのに。

ところで挙げていただいたGBコメディ、シブイのをご存知ですね。Only Fools And Horsesなんて普通は出てこないでしょう。日本映画が好きと言い、クロサワを見ている外国人はおそらく多かれど、トラサンを知って見ている人はあまり多くはないであろうのと同じように。

本当はわたくしは、ネットとかブログに手を染めているのだから、このようなうわごとをつらねるのではなく、どなさんのもののようにためと勉強になることを簡潔かつ美しい筆致で書きたいと願っているのです。英コメに限定すれば少しはねたはあるのです。
が、
わたくしは軟弱な婦女子なので、何かにはまると、現象を全体でとらえるより先に個人の方に興味が行ってしまう。つまり、ジョン専になって本人を追っかけたりとかしてしまうのであって、まだまだためと勉強の見地に達するまでには道は遠いようです。

ところでこのようなとんでもねえガラパゴス亀レスで誠にもうしわけございません。これにお懲りにならず、今後もなにとぞ、びしばしとよろしくお願い申し上げます。

Posted by: akko | 29 August 2005 at 02:33

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